1．それでも一歩を踏み出す勇気
「映画 太陽の子」は《今だからこそ世界中の人が観るべき価値のある素晴らしい映画》だと思った。 だから、この映画を「三浦さんがあんなことになったから、注目された映画」という目だけで観てほしくないと願う。 それは、監督やキャストにも失礼だし裕之と三浦さんの現実に起きたことを重ねすぎることも、本気で裕之を演じた俳優としての三浦さんにも失礼だと思うからだ。 そこを超えて、映画そのものの持つメッセージをまっすぐに受け取る気持ちを持ってほしい。それが、この映画の関係者はもちろん、平和を守る為に戦争で亡くなった魂への敬意になるだろう。 あの日。部屋に遺したノートに書いてあったと報じられた、 《散ることを見据えて残された日々をどう過ごすべきか。 家族に対して気丈に振る舞う学徒出陣はどれだけ辛かったか？ 若くして自分がいない未来に希望を託す青年の想いを、役を通して考えさせられました。 裕之が“前線で体験した壮絶な体験を全く顔に出さず、作り笑顔で日々を過ごすべきか？と苦悩する姿”に自分を重ねている》 の言葉に、「辛くて映画は観られないかも」というファンの方が多いのも、もちろんわかっている。 ……なので今月号は、今まで以上に真っ向から命の重みと向かい合うテーマ故にどう書いていいものかと、毎日三浦さんについての情報を送ってくださるインスタ読者koakoaさんをはじめとする皆さんからの、資料をまとめたノートを前に頭を抱えていた。 でも。それでも！ そんなあなたにこそ言いたい。 「“それでも一歩を踏み出す勇気”を持ってこの映画に向かい合ってほしい」と。 なぜなら、三浦さん自身が「この作品を通して皆さんが戦争というものを考える大きなきっかけになればと思っています」と願い、あの日のたった10日前、7月8日の広島での記者会見でこう語っていたからだ。 「人間は想像力を欠如した時にむごいことをする。戦争を進めていくうちに人間の想像力が欠如する。 僕たちの仕事は、想像力を皆様に届けること。 それが、今後あってはならない戦争への、大きな流れを始めさせないきっかけになるんじゃないかと、どこか信じていたい。 僕もそんな働きの一部になれたらいいと思いました」と。 そして、 「今、僕たちはいろんなことで、人生を諦めたいと思う瞬間もある。 けど、その空しく生きた1日が、当時（の人たちが）あれほど生きたいと思っていた1日。 1日は変わらないじゃないですか。そんなことを胸に、生きていきたい」と。 そう、これは今度は私たちが自らに言うべき言葉。 「今、私たちが生きている1日は、三浦春馬さんがあれほど生きたいと、思っていた1日」だと。 その日、演出脚本の黒崎博監督は語ったという。 「裕之は死と隣り合わせにいるからこそ、毎日を愛おしく思って生きています。期限付きの命だと自分でわかっているからこそ精一杯生きる。初めて春馬くんと会った時『全力を傾けます』と言ってくれて、とても励まされました。 この役が、なぜ自分かということもわかってくれていたようで、それも意気に感じました」 （生と死の狭間を生きる）裕之を三浦春馬さんにしたキャスティング理由は「生きるエネルギー、前面にそれが伝播してくる人」だからだと。これは三浦さんが最後の瞬間まで、力を抜かず生き抜いた証だ。 「生きるエネルギーに溢れる芝居をしてくれてありがとう。あなたを撮ることができて幸せです」と、再び監督がコメントして下さったのは8月15日。 死して尚「生きるエネルギー」を称えられる人。それが、俳優を超えた“表現者”三浦春馬。 彼ほど「懸命に善く生きよう」と自らの背中を押し続けた人はそうはいまい。 ……でも今、私たちは知る。そうしないとならないくらいに常に彼のすぐ後ろには真っ黒な闇があり、それに飲み込まれない為に必死に走り続けていたのだと。 ……「コマは回っている時は倒れん。止まると倒れる。なんでやろ？」と田中裕子さん演じる女手ひとつで息子を育てる母、フミが幼き修に問う場面を思い出す。 三浦さんが休みの日も家に居ずに、まるで自分を追い込む様に殺陣、英語、ダンス、歌などの稽古に明け暮れた理由が、それだったのだろうか。 止まってしまったら……闇に引っ張られてしまう気がしたのだろうか。 コロナになり、世の中が止まりエンタメが中止になり人に会うことも禁止され俳優三浦春馬というコマは回り続けられなくなった。 魂がボディを離れた7／18。 でもそれは、彼の生きてきた日々や、未来を語る熱い言葉を、否定しない。前を向く生きるエネルギーに溢れる言葉は、彼自身を勇気づけ、支えてきたから30年間素晴らしい人生を駆け抜けられたのだ。 ドラマ「僕のいた時間」の最後に、 「僕を支えるのは、 僕の生きた時間。 僕のいた時間なのではないだろうか？」という言葉があったが、真剣に生きた耀く日々が、あったからこそ、ここまで深く私たちは彼に惹かれるのだ。
August 30, 2021 at 12:38PM
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