例年夏休みになると「つくばちびっこ博士」という催しがある。全国の小中学生を対象とした茨城県つくば市主催のイベントで、市内の各研究機関で行う展示などを参加費はほぼ無料で見学・体験できるというものだ。
スタンプラリー形式で子どもたちの収集欲がくすぐられる。付き添いも楽じゃないよと友人たちがぼやくのを昔はよく聞いたが、コロナ禍でイベントがのきなみ中止、ステイホームと言われた夏を経たあとでは、現地で研究機関を見学でき、研究者とリアルに交流できる機会はもうありがたいばかり。
大人だってよその研究機関に興味津々だ。春や秋の特別公開や、つくばサイエンスツアーバスのガイド同行コースを利用するという手もあるけれど、スタンプラリーというだけでちょっとうらやましくなってしまうのはどうしてだろう?
つくばに来て、サイエンスの力にいちばん感じ入ったのは、二〇一〇年六月の小惑星探査機はやぶさの地球帰還だ。あまたのトラブルに遭いつつも大気圏に突入し、みずからは燃え尽きながら中身の入ったカプセルを届けるはやぶさは、当時のインターネットの遅い回線、粗い粒子の画像で見ていてさえ圧倒的に美しかった。
今でも、オーストラリアの砂漠の上空を斜めに横切る光跡をくっきりと思い出せる。それはカプセルと、爆発しながら散っていくはやぶさ本体の最後の輝きだった。それらの解説を、おかえりはやぶさ、という声を、私は当時ユーストリームで、2ちゃんねるのニュー速板で、ツイッターで、現地で空を見上げる人々とほぼ同時に知ることができた。今まさに世界初の小惑星からのサンプルリターンという偉業がなしとげられようとしているのだ! 現在ではめずらしくもないが、ネットによるリアルタイム視聴+専門家の解説+ガヤ勢(コメントやつっこみを行う人々)という構図も新鮮に感じ、ぞくぞくした。
はやぶさカプセル帰還後初の週末、つくばエキスポセンターのプラネタリウムで上映された『HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-』というプログラムは満員で、小惑星イトカワへのタッチダウン、エンジントラブルなど数々の困難を乗り越えていくはやぶさを全天周映像で存分に見ることができた。打ち上げの映像からもう私の涙腺もゆるんでいたが、上映が終わって周囲を見れば他の観客の目もうるんでいて、プラネタリウム全体がざわめきとともにそこはかとない一体感に包まれていたのだった。
あのとき、どうしてあんなに心うたれたのだろうか? はやぶさが最後の力で撮ったというかすれた地球の写真や、プロジェクトマネジメントの力はあとでわかったことだ。やはり「日本の科学技術って、もしかしてかなりイケてるんじゃない?」と誇る気持ちになれたのは大きいだろう。しかしその翌年に東日本大震災、そして福島の原発事故が起こり、私の科学と科学者への無邪気な信頼などは一気に吹っ飛んでしまうのだが。
もう一度、科学技術を誇る気持ちになってみたい。私個人としてはガヤ勢がせいぜいだ。ただ、人工知能(AI)はじめ高度な科学技術が社会実装されようとしている今、生活者も含めた多様な分野から声が上がるのも必然だ。なんせ私たちには、専門家がタコツボ化し耳を貸さずに起きた十二年前のつらい事例があるのだし。
そうだ。なぜ・どうして、と問い続ける心はちびっこたちを見習うことにしよう。ちびっこたちよ、夏を楽しんで。いつか見たこともないような未来を見せてくれるとうれしいな。(作家、つくば市在住)=毎月第三月曜日掲載
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